この人どんな人?

愛知県のクリニックに勤務する理学療法士のブログ

関節の安定性とモーターコントロールについて

◆form closureとfroce closure ペルビックアプローチ

 Snijdersらは,安定性の受動的・能動的要素を説明するために,閉鎖位( form closure )と閉鎖力( froce closure )という表現を用いた.

 

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閉鎖位は,関節面が接近し安定した状態であり,この状態を維持するのに余計な力を必要としない状態とされる.すべての関節に固有の閉鎖位をもつ.閉鎖位の3つの要素は,①関節面の形,②関節軟骨の摩擦係数,③関節周囲の靱帯の完全性

 

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閉鎖力は,その状態を保つのに外力と摩擦が必要不可欠な状態とされる.椎間関節などの平面関節は,大きなモーメントを伝えるのに向いている一方で,剪断力が働くことで傷つきやすいという特徴がある.

 

以上から,これらの機構は身体にかかる負荷を効率的に伝える役割ももつ一方で,安定性はさまざまな外的・内的要因によって変化する.

 

 

 

◆関節のキネティックモデルとInstability

D.Leeはpanjabiモデルを発展させ,骨盤帯の関節力学テストおよび治療に応用した.

 

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Panjabiが示した正常な関節のニュートラルゾーン

『半円の桶』は他動サブシステム,『球』は関節中心を表している.

安定した関節とは,ニュートラルゾーン内に収まる様に球をコントロールできている状態を示す.

 

 

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他動サブシステムが低下し,ニュートラルゾーンが拡大した状態

例えば,ACL損傷をした場合,損傷により新たな可動域( hypermobility )が膝関節に発生する(ニュートラルゾーンの拡大).新しく発生した可動域に対し,筋による制御がないため関節が緩い状態となっている.そのため,「膝が抜ける」「怖い」といった症状につながり,他動サブシステムの低下による膝関節の不安定性が引き起こされている可能性がある.このように,何らかの形で他動サブシステム(form closer)が低下したことによりニュートラルゾーンが拡大した状態をMaitlandはUnstable Instabilityと称した.

この機能障害に対して,破綻した組織を再生させニュートラルゾーンを元に戻すか,拡大したニュートラルゾーン内での新たな運動制御を学習させる必要が考えられる.

 

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ニュートラルゾーンが正常でも自動サブシステムが破綻した状態

ニュートラルゾーンは正常でも,疼痛などよって筋による制御(自動サブシステム)がきかなくなったときも機能的に不安定性を発生させる.これを,Stable Instabilityとよぶ.

 

以上のようなさまざま不安定性の状況により,固有受容器感覚が変化して筋の反応様式が変化する可能性が考えられる.そしてその反応様式が学習されることで外傷の治癒後も関節の不安定性が残存するおそれがある.

したがって,関節の安定化訓練において,単なる筋力強化だけでは不十分な可能性が考えられる.コントロール・自動・他動成分それぞれが,どのように機能障害に影響しあっているのかを把握し,適切な筋の集束,収縮のタイミング,収縮順序など多くの要素を段階的・総合的に評価し治療を進めていく必要がある.