この人どんな人?

愛知県のクリニックに勤務する理学療法士のブログ

左肩甲骨内側上部の痛みを訴える症例の初回介入について

肩関節周囲炎の症例です

症例検討という名の反省日誌であり,自己採点なども含め単なる自己満足の内容になっていますのでご注意ください。

 

【症例】

・60代後半の看護師

・診断名:左肩関節周囲炎

・主訴は「左肩が痛くて肩があげにくい」

・趣味:ウォーキング、ジムでのトレーニング

・印象:明るく話しやすい人だが、リハビリをすることに対して困惑する様子あり

 

【Body Chart】

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【主観的評価】

・疼痛誘発動作(Aggravating Factors)

 肩を上げる

 後ろに手を回す

 寝ているときに痛みがでる(背臥位)

 

・疼痛減弱動作( Easing Factors )

 疼痛誘発動作の中止

 

・日内変動( 24 / 24 )

 朝・日中:特記事項なし

 夜:夜間時痛あり

 

・禁忌事項

 聴取せず

 

・現病歴

 数か月前に誘因なくP①が出現。痛みが減らないため、積極的に運動するなかで
徐々に症状の軽減が認められた。痛みは減ったものの、肩の状態に不安があったため、当院を受診。左肩関節周囲炎と診断され、理学療法が同日より開始された。

 

・既往歴

 腰椎ヘルニア術後。下肢の積極的な訓練を当時の医師から指導され、積極的に運動をするようになった。

 

【仮説カテゴリー】

1.活動/参加制限および能力

 洗濯などの高位への上肢挙上動作にて不便あり。ジム・ヨガでの運動内容に制限あり 

 

⇒ 仮説:制限は挙上動作中心であり,主訴と一致している。これらを介入の狙いとし、介入前後の比較動作(コンパラブルサイン)とする。

 

2.患者自身の考え

 何かの病気でなければいい。以前の腰の症状も運動を積極的に行うことで改善できた。肩はリハビリを積極的にするほどの問題でないと考えている。

 

⇒ 仮説 : 自身の経験から運動により改善すると考えているため、理学療法の必要性を納得しなげれば次回以降来ない可能性あり.より詳細な説明と陽性反応(改善)を引き出し次回以降も来院してもらえる工夫が必要

 

3.病理生物学的メカニズム

症状のon/offがはっきりしている.発症から数か月経過しているが,徐々に症状は軽減している.夜間痛の症状があることは炎症所見を思わせるが,on/offがはっきりしていることや背臥位での疼痛出現という聴取結果から,炎症期の遅延というよりも背臥位が何らかの機械的刺激となって症状を誘発していると考える.BodyChartでは,P①は狭く,間欠的な痛みであることや,話している印象や活動状況から,処理・出力系の問題は小さいと考えられる.

 

⇒仮説:組織の状態は再生/成熟期であり,疼痛メカニズムは入力系が中心

 

4.身体機能障害とそれに関連した原因組織

 肩の運動制限の方向から,関節包パターンと一致する点がある.したがって,肩甲上腕関節の副運動障害が存在することが考えられ,また,屈曲と外転の可動域は120°以上ある点から,前後(AP)方向よりも頭尾側(caudad)方向への制限が検討される.しかし,BodyChart上から症状は肩甲骨内側上部に認められ,肩甲上腕関節の機能障害の傾向と一致しない.

 メイトランドは,肩甲骨内側における症状は頸椎または胸椎が原因となっている可能性があると報告している.BodyChart上と一致している点があり,また背臥位で痛みが出現しているという聴取結果から,背臥位により胸椎に対して機械的刺激が加わることで疼痛誘発となっている可能性があると考えられる.また,以前にも同様の症状を訴える症例に対して胸椎のPAにより改善が得られた結果からも根拠の一つとした.

 

⇒  作業仮説:上位胸椎の機能障害

   対立仮説:肩甲上腕関節の頭尾側方向への副運動機能障害

 

5.関連因子

 肩甲胸郭関節,頸椎,上位胸椎

 

6.禁忌/注意事項

仕事:看護師

症状の進行度:改善傾向

SIN:low,

病理生物学的メカニズム:再生/成熟期

 

⇒客観的評価に制限を設ける必要性はないが,検査の意義について詳細な説明が必要

 

7.対処方法と治療

神経学的検査の必要性:なし

コンパラブルサイン:肩屈曲,外転

作業仮説:上位胸椎の機能障害

対立仮説:肩甲上腕関節の頭尾側方向への副運動機能障害

 

8.予後

ポジティブ因子:話しやすい人柄,SINが低い,改善傾向

ネガティブ因子:理学療法を必要としていない印象

 

【客観的評価】

・姿勢 ⇒評価せず

・触診 ⇒評価せず

 

・生理的自動運動テスト

肩屈曲:120°p

肩外転:120°p

肩外旋:40°

結帯動作:L4レベル

 

・生理的他動運動テスト

肩屈曲:180°p

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肩外転:180°p

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肩外旋:40°

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・他動的副運動テスト

肩甲上腕関節 AP

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肩甲上腕関節 caudad

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上位胸椎 PA

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【意思決定】

caudad方向への副運動制限との関連を確認するため、肩外転90°でcaudad方向への

グラインドをグレード4にて30秒1-2Hzで行ったところ、「肩があげやすい」という結果が得られたことから、続けて同様の負荷で60秒実施した.

 

caudadグラインド グレード4 60秒実施後変化

肩屈曲:170°

肩外転:160°(最終域にてNRS1,2)

 

次に,胸椎の機能障害との関連を確認するため,腹臥位にて副運動制限が大きかったTh1-3に対してPAグレード4にて30秒1-2Hzで実施した.

 

PAグラインド グレード4 30秒

肩屈曲:180°

肩外転:180°(最終域にてNRS1,2)

 

ここまで介入後, 理学療法の効果を実感する発言が得られたため,現状の問題と今後の介入について説明をし,次回以降も来ていただけることを確認し初回を終了とした.

 

 

 

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【自己評価】 10 / 100点

・評価点

 本人の考えを尊重しつつ、理学療法の必要性と効果を理解していただいた点。

 改善(陽性変化)を引き出した点。

 

・問題点

 

検査のルーチンをスキップしすぎ

⇒ 最低でも姿勢を確認すべき

 

仮説を決定する過程に根拠が薄い

⇒ 背臥位により胸椎に対して伸展方向への機械的刺激がかかっていると検討したが,背臥位になった程度の機械的刺激が症状を引き起こすだろうか?かなり疑問が残る.

 また,最初から胸椎の関与に意識が向いており,頸椎の関与の可能性を排除していない.胸椎を肯定するための情報は,BodyChart上の症状の位置が同じだけにすぎず,ここが痛い=胸椎の機能障害は根拠に乏しい.就寝時の姿勢も確認しておらず,以前の経験に依存し,早い段階で思考を狭めていた.

 そもそも,caudadの介入により変化が出たのなら,初回はGHのみに絞って介入したほうがよかったのではないか.すべての行動に根拠が乏しく,妥当性が薄い.

 

 ・結論

 改善が得られたのは偶然と思われる.健全なクリニカルリーズニングとはいえず,単なる作業にすぎない介入だった.