クリニカルリーズニング④ ~レンガ壁アプローチ~
臨床中、学習してきた解剖学や病理学などと臨床所見が一致しないことを経験したことがあるでしょうか?
「肩関節周囲炎なのに挙上動作よりも上肢を下ろしているときが痛い」
「変形性膝関節症なのに荷重動作よりも臥位での動作で症状が増悪する」
「脊柱管狭窄症なのに症状は腰椎屈曲時に出現する」
あくまで一例ですが、診断名・エビデンスに対して、臨床所見が一致しないということは稀ではないと思います
そのような時、皆さんはどちらを根拠の拠り所として意思決定を行うでしょうか?
非常に選択に迷うのではないかと思います
理学療法士の心理を「理論的区域」と「臨床的区域」に分割することにより
意思決定過程が妨害されることを防ぐことが可能となる『メイトランド 四肢関節マニュピレーション』より
これは『レンガ壁アプローチ( 表象的半透性障壁 )』と呼ばれる心理過程です
上記のような絵に表現され、『理論』と『臨床所見』を比較し吟味することで
『理論』だけを鵜呑みにせず、批判的な側面も含めた意思決定を行う有用なアプローチです
※レンガ壁がとっつきにくかったため、僕は『もしこうならばこうなるだろう』アプローチと捉えています( 頭が悪そうな捉え方笑 )
絵だけではわかりにくいので、腰椎椎間板ヘルニアの症例用いて説明していきたいと思います
症例:腰椎椎間板ヘルニア
ヘルニアという診断から、腰椎の屈曲動作で椎間板が脱出し症状が出現する可能性が検討できます。
理論:腰椎の屈曲動作により症状が増悪するはずであり、伸展動作は安楽肢位のはず
という理論区域が考えられます
次に、それが問診や検査から一致するか検討します。
問診から、屈曲動作での症状は軽度で、症状の最大増悪因子は腰椎の伸展動作という聴取が得られたとします。すると
臨床:腰椎屈曲動作での疼痛は軽度であり、最大の疼痛誘発動作は腰椎伸展動作
という臨床区域が考えられます。
そうすると、『理論』 ⇒ 『臨床』 に矛盾が生じていることがわかります
ここから導かれる思考はさまざまですが、
『画像上はヘルニアがあるかもしれないが、腰椎の伸展動作で増悪し屈曲で症状が軽度というのは、この人の主訴となる痛みと一致しない。
腰椎の運動方向による症状変化について情報をもっと得る必要がある
伸展で増悪するなら回旋はどうだろう?
上位脊椎からの屈曲で軽度なら、下位脊椎からの屈曲である股関節屈曲での症状変化はどうだろう?』
と僕なら考えるかもしれません。
そして、今度は『臨床』 ⇒ 『理論』を確認していく作業になります。
この理論区域と臨床区域の壁を行きすることが『レンガ壁アプローチ』という思考過程になります。
これを仮説カテゴリーや検査・評価に用いていくことで狭いクリニカルリーズニングになることを防げる可能性があります
最終的に、『理論』も『臨床』もつながったのであれば、それは一つの有益な情報となります。その情報がすべての主観的・客観的評価とつながってくるのであれば、エビデンスと臨床的エビデンスのどちらにも偏ることのない、両側面から検討した妥当性のある情報になったと考えられます
しかし、ここで疑問が生じます。
どれくらい『理論』と『臨床』が一致すればよいのでだろうか、という点です
結論から言うと
わかりません
僕は5個くらい有益な情報を集められるといいかもねと指導を受けましたが、必ずしもそうなるわけではありません
1つだけでも非常に根拠のある結果もあれば、複数あっても根拠として薄い結果もあります。
感度・特異度の高いテスト(トンプソンテストなど)は信頼が置けますが、疑陽性の高い検査(スピードテストなど)をいくら集めても根拠が薄いのと同じです
ここは経験の数が大きいのではないかと思われます。
そのため、自分の周りのエキスパートや勉強会で積極的にこの点を聞くことで自身の不足する部分を補う、というのが一番の近道かもしれません。
以上が、簡単になりますがレンガ壁アプローチの説明になります。
この思考の副次効果として、次に何の検査・評価をしようかと思考停止にならず、次へとつながる行動を検討することもできます。
また、復習をする際にも便利で、「あのときこう思ったけど、この点と矛盾がある。今考えると、この可能性も考えらえたな」
と自分の思考の矛盾や別の考え方を理論的側面と臨床的側面の双方から検討するのにも役立ちます
ここまでまとめて思ったのは、このレンガ壁アプローチは、中学の数学で習う必要十分条件みたいなものだと思います
臨床と理論が必要十分となっている情報を集めて、意思決定に役立てていく過程はとても似ているのではないでしょうか
レンガ壁アプローチについては
・メイトランド四肢関節マニュピレーション
に細かく説明してあります
是非ご参照ください。