クリニカルリーズニングについて② ~ 仮説カテゴリー ~
前回、理学療法士におけるクリニカルリーズニングの重要性について書きました。
今回は、そのクリニカルリーズニングを実践する上で役に立つ、『仮説カテゴリー』についてまとめていきたいと思います
まとめていく前に、まずはこちらの絵をご覧ください
目隠しをした人々が、触れているものが何か答えている絵です。
同じ象に触れているにも関わらず、触れる場所が異なるだけで、木やロープ、蛇や壁など、象からは程遠い答えばかりになっています。
これは、『The Blind Men and the Elephant( 群盲象を評す )』という絵になります。
もともとはインドの寓話らしいですが、世界中にさまざまな形で伝わり、『物事を1つの観点だけでみると間違いのもと』という意味やそれに類似した意味で広まったとされます。
オーストラリアの理学療法士 Butlerは、この絵を用いて理学療法の対象となる人物の一部分に焦点をあてるのではなく、その「人」全体をとらえる重要性を提唱しています。『 Big Picture Approach 』と呼ばれ、多様な観点から患者さんの全体像を知り、個々に応じた治療を展開していくというものです。クリニカルリーズニングの考え方に非常に似ています。
しかし、決められた時間( 単位 )のなかで、どんな人物かどうかを検討し始めると時間がいくらあっても足りなくなってしまう可能性があります。
そこで,患者さんの全体像をとらえるために、Jonesらは『仮説カテゴリー』を用いることを推奨しています。仮説カテゴリーは8個の項目から成り立っており、会話の中で得られた症例の情報をそれぞれ分類していきます。各項目に応じた仮説を検討し、治療に役立つのかどうかを吟味することで、意思決定を補助することが可能となります。
簡単に言えば、統合と解釈を機能的側面だけでなく広い視点で行いましょう、というものですね。
(※ 近年、10個の項目に分けることをJonesは推奨していますが、8個の項目を10個に細分化したものであり大きな違いはないため、このブログでは8個のカテゴリーとして説明していきます)
各項目は以下の通りです。
- 活動/参加,能力および制限
- 患者自身の考え / 展望
- 病理生物学的メカニズム
- 身体的機能障害とその原因組織
- 関連因子
- 禁忌/注意事項
- 対処方法/治療
- 予後
項目毎の主な収集内容と目的を簡単にまとめました。( ※実際はもっと細かく情報を確認します )
あくまで一例にすぎないですが、このような形になります。
各項目については、もっと詳細をのせたいのですが非常に長くなってしまいますので簡略化しました。より詳細を知りたい方は
・マニュアルセラピーに対するクリニカルリーズニングのすべて 協同医書出版社
・徒手理学療法における臨床推論の進め方 PTジャーナル 第44巻 第8号 p653-659
この辺りを読むことを強くお勧めいたします
さて、これら8項目を前述した象の絵のように当てはめるとこうなります。
最初の象の絵は、それぞれが情報を持ち寄ることで象という回答にいきつく可能性が高いでしょう。
臨床も同様に考えることができ、これら8項目の仮説が吟味されていることで、患者さんの人物像がより鮮明になる可能性が高まります。そして、介入時の方向性に根拠が増し、理学療法の展開に妥当性が生まれると思われます。
ここまで説明してきましたが、なかなかとらえどころがない印象ではないでしょうか。具体的には症例を通して検討することが一番わかりやすいので、今後仮説カテゴリーを用いた症例ケースをまとめていきたいと思いますのでよろしくお願いいたします。
前回の記事にのせた、齋藤先生のnoteには仮説カテゴリーを用いた症例検討がのっています。是非ご一読ください。