リスク管理に有用な『SIN』の紹介
今回はいままでと少し趣向をかえた内容をまとめていきます。
新患の初回介入時、どこまで検査・治療を行ってよいか判断に迷うことがあると思います。新患に限らず、症状が強い症例に対して判断に苦慮した経験はすべてのPTに当てはまるのではないでしょうか。
その際、経験のあるPTは経験に基づき予測を行いながら介入するかもしれませんが、経験の浅いPTにそれは困難です
そこで、今回は介入時の判断材料として便利な『SIN』という評価について紹介していきます。仮説カテゴリーに落とし込める情報でもあるため、クリニカルリーズニングにも役立ちます
SINとは
S :Severity of symptoms 症状の重症度
I : Irritability of symptoms 症状の感応性
N :Nature of symptoms 症状の動態
SINは、これらの頭文字をとった略称です
それぞれ、low,middle,highの3段階で評価します
そして、その3つを統合してSINをlow,middle,highとして評価します
SINがlow ⇒ 検査・治療に制限を設けない介入を
SINがhigh ⇒ 検査・治療に制限を設け、リスクマネジメントを優先しながらの介入を
というのが大まかな流れです
次に、それぞれの判断基準について説明していきます
Severity of symptoms:症状の重症度
Severityは、症状の強さを評価します。
痛みをNRSなどを用いて評価し、3段階に分けて評価します。
NRS 1-3 ⇒low
NRS 4-5 ⇒middle
NRS 6-10 ⇒high
僕はだいたいこのように評価しています。( ※基準は個人差あり )
Irritability of symptoms:症状の感応性
Irritabilityは、症状が悪化する可能性の程度を評価します
確認することは、症状の出現しやすさ、症状の回復までの時間、引き起こされる症状の強さなど
悪化する可能性が低い⇒low
悪化する可能性が高い⇒high
Nature of symptoms:症状の動態
Natureは、症状の出現傾向を評価します
確認することは、日内変動はあるか、安静時痛の有無、症状のon/offは明確か、疼痛増悪動作の傾向は一致しているかなど
症状の傾向がはっきりしている ⇒ low
症状の傾向がはっきりしない ⇒ high
以上の3つを総合的に判断し、SINをlow、middle、highのどれかとして評価します。
制限を設けるときは、機械的刺激が大きい手技( MMT、整形外科テスト、神経動的テストなど )を使わない配慮が必要と考えられます。つまり、痛みを出さないような判断ですね。
それで例を通して検討してみましょう
Aさんは、2日前から急に肩に痛みが出現しました。痛みにより夜も寝られず、私生活に影響を及ぼすほどの強さでした。痛みの出現する動作は、肩屈曲・外転・外旋方向で著明に認められ、痛みが出現すると1-2分はうずくまるほどです。
Q.この症例のSINをどう判断、どのような介入につなげるでしょうか?
S:痛みがうずくまるほど⇒重症度高い
I:痛みが出現して回復するまでに時間を要し、痛みは強い⇒症状は悪化しやすい
N:痛みの出現する運動方向に傾向があるが、夜間痛もあり⇒安定していない
以上から、SINはhighと判断する。
配慮として、自動運動であれば痛みが出現する手前までにし、他動運動による検査は本人の主訴などを鑑みて、必要性を検討する必要あり。
かなりおおざっぱですが、このようにしてSINを使います
ここまでSINの使い方を説明してきましたが、一つ注意したいことがあります。
それは、あくまでSINが一情報にすぎないということです。
SINがhighでも積極的に介入する必要のある症例もいれば、lowでも会話的治療が優先されるべき人もいます。
SINは便利ですが、それだけですべての意思決定の根拠になるほど万能でもありません。
症例の反応はそれぞれ異なり、PTに配慮して痛みを小さく言う方もいれば、少し大げさな反応をする方もいます。単純に数字が低い高いだけで判断するのではなく、本人の振る舞いや印象、自動・他動的テストの反応なども総合し、SINを仮説カテゴリーに落とし込んで初めて意味が生まれるということを忘れないようにしたいですね